'香るバラ' 会津花畑蒸溜所 '香るバラ' 会津花畑蒸溜所

花畑薔薇小話:ローズ蒸溜

‹ 2019/06/04 ›

会津花畑蒸溜所では、生花をお求めになる方々が多数ございます。会津のバラは今が咲き時。この季節、弊所では毎日蒸溜を行っています。

そこで今日はちょっと深堀りしたローズ蒸溜の小話。

【蒸溜とは?】

蒸溜とは、簡単に言いますと、溶媒に水を使って加熱した際に生じる各成分の沸点差を利用した成分抽出または濃縮のための技法のひとつで、お酒や芳香蒸留水・精油を得るために使われる手法です。

よくあるのが、ポットスチルを使って作る蒸留酒。飲んで楽しむアルコール、エタノールを強く含み濃く美味しく飲むお酒を造るものです。芳香蒸留水を得るために使うのも、似たつくりの蒸留器を用います。

(また、化学でも蒸溜は最初に覚える大事な事柄で、例えば98%エタノールを更に濃縮し、99.95%のエタノール溶剤に精度を引き上げたりします。ちなみに高濃度のエタノールが如何に取扱い注意深くなのかもこのとき学びます。)

製造・生産用途で、よく見る古典的なものとしては、洋式アランビック型蒸留器。今でもこの形でハイドロ式蒸溜を行っている国・地域もありますし、そこにカラムを付けた今でいうスチーム蒸留だったりと、時代によって器械にも様々な工夫がなされてますね。

また、和式ですと、日本でも江戸時代には『欄引』が嗜好者に流布してたようです。

最近ですと、水分を使わない機械式蒸溜様式もあって、これでもオットーが取れたりします。

精油目的ですと、触媒を有機溶剤にしたアブソリュート法もありますが、なるべくなら自然を生かした方法にしたいですね。

【芳香、アルコールとは】

さて、ここで一旦、目的の芳香蒸留水とアルコールの関係について、オサライしましょう。

精油なんかに興味を持ちますと、よく『シトロネロール』とか『ゲラニオール』、バラがお好きな場合は、『フェニチルアルコール』などの芳香成分を耳にすることがあります。

そんな香りの成分の名前は、末尾に『オール』が付くことが非常に多いですね。そうなんです、香りの多くの成分もまた化学的にはアルコール類なのです。違いは酔って楽しめるお酒なのか、香って安らぎを与えてくれる芳香成分なのか。

そしてオールと同じく重要なキーワードが~芳香~です。これも化学的用語に『芳香族』というものがあります。もちろん、その名の通り、芳香環をもつ揮発性の分子は香りがあることが多いのです。

化学式でアルコールと芳香族を見てみましょう。

バラの主成分フェニチルアルコールは、とってもわかりやすいですね。芳香族である芳香環を片端にもち、逆端にはオール(OH)があります。また、全体の作りはシンプルで、複雑性はありません。

ここでもう一つ重要な点は、組成が簡素ということ。分子構造が小さいと、より揮発性が高く、そのほかの特徴的な構造が少ないと親水性に傾き安い両面を持っているということです。

今度の図は、同じダマスクローズの花から蒸留法で得られる精油(オットー)と芳香蒸留水(ローズウォーター)との間の成分の違いです。

随分異なりますね。先ほどのフェニチルアルコールは、ローズウォーターの香りの主成分となりますが、オットーの主成分はシトロネロールとなります。

【花・原材料】

芳香の話で分かったことは、同じ蒸留法でも目的によって作法・原材料も細かくこだわると、より良いもの・目的に叶った仕上がりで得られるってことですね。

オットーの香りを求めるのか、ローズウォーターの香りを求めるのか。

原料のダマスクローズも、写真の通り、大きくは二つの形態の原材料花を得ることができます。ひとつは『フレッシュ』もうひとつは『ドライ』。

 

芳香蒸留水側に傾く香り成分と精油側に傾く香りの成分。

ローズはそもそも精油側の成分が少ないので、小さな蒸留器では芳香蒸留水が精いっぱいですね。また自分のお好みや必要な香りがローズウォーター側であれば、原材料はフレッシュを選択します。

フレッシュの写真には3つの状態のダマスクローズ花があります。一目で色濃く一番水みずしいのが左端ですね。

逆に如何にもバラなオットーに近づけたい場合は、乾燥で水分と一緒に軽めの芳香成分を飛ばしたドライを選択するのもありです。

【ペタルの話】

ちなみに写真のドライは、『バッツ』です。ペタルではありません。

弊所の主要品種カザンリクの学名は、ロサ・ダマスケーナ・トリギンティペタラ。~トリ・ギンティ~とはその名の通りラテン語で30という数。~ペタラ~(ペタル)とは花弁という意味です。

(Google翻訳などで、ラテン語trigintipetalaでご確認ください。)

【蒸溜】

いよいよ蒸溜の話。

蒸留は、求めたい各成分と水、それらの沸点差が重要ですから、化学式はとても重要になります。軽めのものは、水より早くあがり、重めのものは水蒸気につられて上がります。

加熱温度とかける時間がとても大事。焦がしてもだめ。水の温度は変えられるけど、蒸気の温度を変えるには、蒸留器にもう一工夫必要ですね。

弊所ではそんなローズの芳香成分の分布、弊所の花規模、環境などを鑑みて、スチーム蒸溜よりハイドロ蒸溜のほうがより良い結果が得られると考えております。

皆さんもぜひ、いつもと視点を変えた蒸留で香りの違いを楽しみましょう!

最後に、意外とゾンザイにされがちな出来上がり品。

これも蒸溜後すぐさま結果を求めてはいけません。少しだけ待ちましょう。

ではまた^^