'香るバラ' 会津花畑蒸溜所 '香るバラ' 会津花畑蒸溜所

花畑薔薇小話:バラの歴史と文化[2](古代ギリシア周辺1)

‹ 2019/08/20 ›

2回目は、古代ギリシア及びその周辺に時代を移し、「バラの歴史と文化」が垣間見れるところから時代を下りつつ覗いていこうと思います。

ところで、薔薇と人の関わりの歴史をたどろうとしますと、ちょっと「あれっ?」って思える解説をしばしば見かけますね。よく「~と言われている」と見かける文章。もう一度原点に戻って、妄想や誤解、過分なロマンスをできるだけ排除して、実際どんな風に描けるか見ていきます。

また、植物や香り、薔薇の話も多いテラフラストスに至る前には、バラには縁が薄い話にも多々触れますが、すぐさま薔薇の話を頂きたい方でも、ぜひ少しだけ我慢してもらえるとありがたいです。><

年表

まず、今回は文明が発生してからローマに至る前までの話となりますので、その概ねの年代と古代ギリシア、メソポタミア、エジプト、ローマの文明時期を年表にしました。

薔薇や香り、文化にまつわる話がでてくる遺物はもっと多くありますが、その中でも原点に近づきやすいもの、背景が描きやすいもの、著名で広く理解しやすいものをピックアップしてます。この図表のうち、ここでは青文字のところを探索していきます。

黒太文字にしたアレキサンダー大王は、薔薇にも東西文化交流にも、ローマのプリニウスやディオスコリデスの見識にも繋がる重要な役割を果たしているのですが、彼については、一つの書物で一筋の道が見えるものではなく、かなりの考古学になってしまうので、私レベルでは「と言われている」だらけになってしまいます。

彼の貢献については、紐解かないかもしれないし、紐解くかもしれないけれど、ずいぶんと後になりますので、重要ですけどとりあえずということで、重要参考人として目立つようにしてます。私的にはローマで花開く薔薇三昧の話のそのほとんどをこの大王がもたらしたものだと思っています。

ギルガメッシュ叙事詩

さて、古代ギリシアの前に、薔薇や香の話でもちょいちょい引き合いに出されるメソポタミアはギルガメッシュ叙事詩に触れます。

(ここでの底本は、岩波書店 ギルガメッシュ叙事詩 月本昭男訳、うち標準版と古バビロニア版の書板訳を参考にしてます。)

この時、エジプトは中王国、モーセの出エジプトやツタンカーメンの時代よりもっと古く、ギリシアは青銅器の時代。クノッソス古宮殿のあった頃より少し前のこと。クノッソス宮殿といえば、青い鳥の描かれた壁画が薔薇にまつわる話でも有名。でもここではクノッソス宮殿の壁画の話はしません。

この詩は、B.C.2000年よりもっと前のウルクの地、ギルガメッシュ王の伝説的な物語を長編的につづったもので、特に著者がハッキリしているものではなく、伝説の寄せ集め詩集のようなものとなります。

様々な言語、地域で書き写され、あるいは伝承、または記録され、お伽話や神話のように後からあとから枝葉が付いた物語ですが、B.C.1200年頃に標準バビロニア語をもって現在の標準版として扱えるものが概ね整ったようです。

大雑把な話は、今から4~5000年前頃、暴君であるギルガメッシュの討伐遠征と不老不死の薬草を求める旅物語からなり、要所ようしょに神が割って入って来て、事を荒立てたり、教えを与えたりしながら、最愛の友を失い、遂には自己の死に向かいあうお話です。

では、この作中に、バラや香り、嗜みの具合がどのように描かれているのか見てみます。

~食と宝飾~

物語冒頭、ギルガメッシュの波乱万丈な物語が進む前、そもそもこの物語がこのラピスラズリの書板に書いてあるので読んでみなさいと記載されてます。現在私たちが見ているこの詩は、後世の人たちが書き記した粘土板が元ですが、どこかにこの詩の原点が記されたラピスラズリの石板があるのかもしれません。

物語が始まると間もなく、未だ野獣のエンキドゥが聖娼シャムハトによって人らしくなり、ギルガメッシュの住む街に向かう話が出てきます。旅の途中、放牧者たちに休息の施しをもらい、代わりに助けを与える場面がありますが、ここではパンとビールを飲食してます。大変美味しかったらしくビールは7壺も空けたとあります。壺のサイズは分かりませんが、獣人レベルですからジョッキ7杯よりは多そうです。

また、討伐に成功し帰還してきたギルガメッシュに対し、女神イシュタルは贅沢な貢物で気を引き、結婚を迫りますが、その中の一つに金とラピスラズリで飾った馬で牽く乗り物がでてきます。ラピスラズリは、この地域の名産宝飾材だったようで随分重宝され、他にも多々登場します。

現在でも見ることができるツタンカーメンの黄金マスクの青石装飾もラピスラズリ。金にあう宝石・装飾材として贅沢な品を思い描くことができます。

さて、物で釣ろうしたイシュタルに対し、ギルガメッシュは~これでもか!~というほどの罵声を浴びせて、これを拒否します。結果、イシュタルの逆上に触れ、更に波乱万丈な人生の追い打ちを受けることになるのでした。><

~香~

香にまつわる話題としては大きく3つ。

1)良い香りのする建材「香柏」。

前半の討伐物語の目的の一つレバノン杉。所々に出てきますが、イシュタルがやはりギルガメッシュを口説く際のくだりの続きに、「香柏の香りに包まれて私の神殿にお入り、そしたら諸侯の皆がひれ伏すでしょう」とも言ってます。神聖な場所に緑の香りは、神社と杉の木、オリエントだけあって似ていますね。

2)神言を聞く際の作法として、身を清めた後の「薫香」による供え。

日本では、薫香に似た様式として、焚香(お焼香)があり、これも似ています。

3)化粧あるいは肌のお手入れとして、体を洗った後に塗る「香油」。

エンキドゥがギルガメッシュに出会う前、ビールを7壺飲みほした後、体を洗って香油を塗り、嗜みと人間らしさを覚えたとあります。

全体を通して、香りを感じる身近な作法として、今とも変わらない使い方をしている感じがします。

~薔薇~

さて、いよいよ。でも、ギルガメッシュ叙事詩では、残念ながら薔薇がロマンチックなものとして登場することはないようです。

バラが出てくるのは最後の最後。ギルガメッシュは不老不死を求める旅の先、遂にその薬が何かを知る人物ウトナピシュティムに出会います。

そして、ウトナピシュティムから『老いたる人が若返る』薬がある。それは、~根が棘やぶのような「草」でその棘は野薔薇のように手に刺さる~ようなものだと聞かされます。

つまりバラが弛まぬ命に係わるのではなくて、単に「若返りの草」の根がひどい棘を持つことをバラの棘で例えただけのものです。

そしてギルガメッシュはこの草を採取することには成功しますが、持って帰る途中の休息地で泉に入って体を洗っている時に、ヘビにこの草を食べられてしまい、若返りは叶いませんでした。

代わりにこれを食べたヘビは直ぐ脱皮します。効き目があった印象を与えますが、この草のある場所は海の深底。ないものを得ようとするところの無いものねだりのような気がします。^^;

地中海周辺の地理

さて、ようやくB.C.1200年ごろの古代ギリシアへ赴きます。と、その前に、薔薇の歴史の地理感を踏まえ、界隈の地図を見てみます。まずは、東方から、レバノンがダマスカスに存外近いことがわかります。同時にギリシアからは意外と遠く感じます。

地図上の地域・地名などは馴染みやすいもので記載。まずはホメロスのイーリアスを紐解きますので、主要人物を出身地付近に配置。イタキ島のオデッセウス、テッサリア南側に主人公アキレウス、敵方トロイには問題児パリスと横取り妻ヘレネーを。

エーゲ海を中心として、概ね西側をギリシア側、東側は小アジア側(現トルコ)と考えますが、この時代はギリシア人が小アジアに入植し、ギリシア文明を築いていますので、イーリアスの戦いも結局は同族争いとなります。

叙事詩イーリアス

(ここでの底本は、冨山房 イーリアス 土井晩翠訳を参考の中心にしてます。)

イーリアスはトロイア戦争の一部をギリシアの神々も口出してくる物語風にアレンジしたお話で、ブラッド・ピッド主演の映画【TROY】でも話の片りんを見ることができ、神速のアキレウスが主人公のとても面白い読物に仕上がってます。ここでは神々のちょっかいから、薔薇にまつわる逸話に触れることも多々ありますので、あえて~神々のお戯れ~を含めて紹介する次第です。

さて、事の発端は、ギリシアの神々のお戯れから始まります。この戯れに付き合わされたのがトロイの問題児おぼっちゃまパリスです。正直なところ、実直で剛健な次王、長兄ヘクトールからしますと、弟がやらかしてしまった問題の後処理をさせられる踏んだり蹴ったりの話となり、私的にはヘクトールに情を感じてしまいます。^^;

~ことはじまり~

薔薇の読みときを前にちょっとだけ前振り。

あるとき、ゼウスの妻ヘラ女王、知恵・戦の女神アテナ、愛と美と性の女神アフロディテ(後のローマに至り薔薇が大好きなヴィーナス神)の女神3者が、誰が一番美しい女神なのかを決するお戯れを始め、トロイのパリスに選ばせることになりました。

(メソポタミアの神もそうでしたが、この時代・地域の神々は、人に戒めや恵みを与える以外の時期には、暇を持て余して人に余計なちょっかいを出してきますが、それこそが神の試練なのかも知れません。)

呼ばれて来たパリスは、女神たちからそれぞれ贈収賄まがいのPRを頂戴し、結審して素直に言ってしまいます。

『ボクはアフロディテが最高に美しい女神と思います!』ってな。

はてさて、アフロディテの買収ネタとは、~「最も美しい女をお前に与える」から私を選んで~というものだったので、早速、貰いに行くのですが、先走った上に、そのお相手がスパルタ王の妻ヘレネーだったもんで、とんずらしてトロイにお持ち帰りし、『やっちまったおらぁ、ヘクトール兄さん助けて~』となります。><

しかるべくして、激怒したスパルタの王メネラーオスは、近所でミケーネを治めていたアガメムノーン兄さんを頼り、ギリシア軍勢一致団結・国を挙げて、『あいつしばいたるわー』ということで、嫁を奪取しにトロイに向かうことになるのでした。

ちなみに、この時、主人公のアキレウスと言えば、離れ島にて剃毛し女装中ですから、この頃のアキレウスを模した絵の肌はツルツルが多いです。@@;

~土井晩翠と南山御蔵入騒動~

物語がいよいよ始まるところですみません。ここで一旦ブレイクタイム。イーリアスの訳者の一人、荒城の月の作詞で有名な「土井晩翠」さんと南会津のお話をちょいと差し込む前にて、続くといたします。

では、次回をお楽しみに!^^