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花畑薔薇小話:バラの歴史と文化[2](古代ギリシア周辺3)

‹ 2019/08/21 ›

叙事詩イーリアス(その3)

では、ようやくイーリアスに描かれた薔薇、香りや嗜みに関するお話。

(ここでの底本は、冨山房 イーリアス 土井晩翠訳を参考の中心にしてます。)

~お酒~

ギリシアの神々というとバッカス酒神を始め、お酒・宴会が大好きですね。イーリアスでも神々と人々それぞれ酒を飲んだり宴会したり、かなりの回数戦ってない時には酒がでてきます。

「葡萄の酒、暗紅色の酒」という表現が見られ、ワインは多く飲んでるようでした。

~薫香~

ギルガメッシュ叙事詩と同じく神と人が触れる場面では、「薫香」たびたび出てきます。

1)アフロディーテの香り

物語序盤、パリスがヘレネーを連れてトロイに逃げ隠れている時、夫メネラーオス始め、ギリシア連合軍が迫ってきます。ヘレネーは、パリスの身を案じ、アフロディーテに助けを求めます。

アフロディーテはパリスとヘレネーの恋を掘り起こした張本人ですので、責任を感じているのか、トロイの味方に着いてるんですね。

求めに応じてアフロディーテがヘレネーの前に現れた時、薫香を衣に纏っていたとあります。「神酒の如き香り」だったとありますが、素直に考えますと、~宴会中に呼ばれたので酒臭いままやってきた~ようにも感じます。^^;

2)贖罪の祈願

「罪を犯して悔ゆる時、香を燻じて心より祈願をいたし、奠酒禮供へ、脂肪のいけにへを」とある通り、神に祈願する際には、香を燻じ、酒と生贄を貢いでいます。

他に薫香の煙を天にあげるようなシーンもありましたので、神に通じてもらうのには、香が必要なのかもしれません。

~香油/霊薬~

イーリアスでは、香油は人が使うものと神々が使うものと、役割の違う2種があります。

1)人が日常使う香油

トロイ近海にて、ギリシア連合軍とトロイ軍が対峙している時、それぞれの王は、敵陣の備え・様子を探るため、斥候を送り込みます。

トロイ側の斥候に立候補してきたのが「ドローン」さんです。見た感じ、ドローンを背負ってますね。^^;へぇーと思いました。斥候にいったドローンは、準主人公のオデッセウスともう一人に捕まってしまい、トロイの状況をしゃべらせられた挙句、やられてしまいます。

トロイの状況を知り得たたオデッセウスは、この手柄をもって大宴会を始めます。

「浴室に入りて潮水洗ひ棄て、香油を膚にまみらして」

ここでもやはり体を洗ったら、香油をお肌のお手入れは欠かせないようです。また、御礼に女神アテネに御神酒をあげています。3女神のお戯れに敗れているアテネ神はギリシア側についていたようです。

2)神々の霊香

イーリアスの主人公アキレウスは、自領の王アガメムノーンが嫌いなので、戦に参加してません。そんな中、アキレウスの親友パトロクロスは、先んじてオデッセウスともに戦に参加しているのでした。

が、戦いの中で、トロイの次王ヘクトールに倒されてしまいます。遺体はギリシア連合軍側で引き取ることができました。ただ、本土に持ち帰るには屍が持ちません。

そこで、ギリシアの見方、女神アテネが~アムブロシヤの霊薬~を使い、腐食防止をした記述があります。

「パトロクロスの鼻孔より、アムブロシヤ、又血紅の靈液注ぎ、其屍體腐敗すること勿らしむ。」

親友パトロクロスを失ったアキレウスは、激怒していよいよ戦に参加することになります。もちろん相手は、元凶パリスではなくて、パトロクロスを倒したヘクトールになります。

アキレウスが参加したギリシア軍は、めっぽう強くなってトロイに攻め込みます。アキレウスが倒したいのはヘクトールだけなので、彼を追い回し、遂に敵を討つことに成功します。

その後、アキレウスは、ヘクトールの屍を縛りあげ、飽きるまで引きずり回すのですが、ここでトロイの味方アフロディーテがやってきます。

「狗を遠ざけ、アムブロシヤ薔薇の香油まみらして、アキルリュウスにひきながら屍體を裂くを得せしめず」

ここで、神々の霊薬アムブロシヤ香油を使いますが、ここでは~アフロディーテ特製~となっており。薔薇入りとなってます。^^;

アフロディーテは、ヴィーナス神になるころには身近に薔薇をまとわせるようになりますが、このころから片りんが垣間見れるのでした。私的には、薔薇と香りの繋がりは見いだせず、薔薇印だったんじゃないかと思いました。

~薔薇~

さて、イーリアスに出てくる薔薇ですが。ここでも薔薇でロマンの溢れる話にはなりません。

1)色を薔薇で例える

「紅の薔薇色なる指もてる曙の神エーオース」

女神エーオースがちょいちょい現れますが、彼女を紹介するときには、必ず~薔薇色の指~が出てきます。「紅」とありますので、結構な赤色。アフロディーテの霊薬~アムブロシヤ薔薇の香油~。花色と薬効を考えると、西洋の薬用薔薇として古くからある赤い薔薇「ロサ・ガリカ」が妥当に感じますね。

ここまで、ギルガメッシュとイーリアスの両叙事詩を見てきましたが、薔薇と香りの話、ダマスクローズにつながるようなフレーズは見つかりませんでした。

さて、次はいよいよ、アレクサンダー大王が大暴れする時代。テオフラストスの話題となります。